壁ドン。

完全に乗り遅れたが、いま巷では『壁ドン』という行為が流行っているらしい。

女性を壁際まで追い詰めて強引に壁に『ドンっ』と手をついて音を立てると、何とも思っていなかった異性でもドキッとするというのだ。

最近では雑誌でも俳優さんの撮影をする時によく『壁ドン』してください!というリクエストが出るくらいだ。

正直男から見て何が良いのかよくわからなかった。

しかしこの前、ある撮影現場でイケメン俳優さんに楽屋でふざけて壁ドンしてもらった時、世の女性達の気持ちが少しわかる気がした。

あの強引さにいったん相手の顔から目をそむけてしまうが、恐る恐る顔を上げると自分が想像したよりも顔が近くにあり、その瞬間『もう好きにして~!』というある種の服従感のようなものが襲ってくるのだ。

しかし間違えてはいけない。

壁ドンをやっていいのはイイ男だけだ。

僕みたいな男がこれをやろうものなら服従感よりも圧倒的に嫌悪感が勝り、下手したら通報される恐れもある。

あと実際に都合良く壁際に立っている意中の女性は思ったよりも少ない。

持ち運びが出来るマイ パーテーションでもあれば話は別だがそれもまたリアリティーはない。

壁にドンっと手をつくときの加減も難しいものがある。

勢いよくつきすぎると『あ、こいつ壁ドンしてる自分に酔ってるな』と思われるし、逆にあまりにも弱いと『するならするでもっと強くこいよ男らしくない』となるからだ。

そもそもこうやって考えすぎる性格の人には『壁ドン』は向いていないのかもしれない。

やるなら自分の中のナルシズムを呼び起こし『世界で一番おれがカッコいい』と言い聞かせる覚悟が必要だ。

やはり僕にはその覚悟は無いなと思いながら、雨足が強くなってきたので小走りで昔からある定食屋の暖簾をくぐった。

今日はやたらガッツリ食べたい気分。

そう思いながらベタついたメニューを手に取り、丼ものの欄に視線を移した。


店長おすすめ!!
・特選ロースかつ丼 900円


即決。

一瞬で口の中がかつ丼仕様になっていくのがわかった。


お前には『壁ドン』よりも『かつ丼』が似合っている。

そう定食屋の店長に言われている気がした。