不倫に時効なし、の巻。

神奈川県で79歳の女性が79歳の夫に対し殴るなどの暴行を加えて死亡させたというニュースがTVから流れた。

武者小路実篤の『友情』を読みながらこのニュースを流し聞きしていて、あぁ恐らく動機は介護疲れとかなんだろうなと勝手に思っていたのだが、

『犯行動機は40年前の夫の女性問題だということです。』

肯定も否定もしない、アナウンサー特有の平べったい声に思わず耳を疑った。

40年前の女性問題!?

クライマックスにさしかかっていた小説のページにカバーの端を挿し込みTVに視線を移すと、人の事を殴る予感を微塵も感じさせない白髪の老婆が警察官に連れられている映像が流れていた。

女性問題とは不倫だろうか。

だとしても40年前の不倫が許せないで殺害にまで至ることがあるのだろうか。

いや、実際にあったのだ。

40年間、心の中にいる魔物と対峙し続けた彼女に対してのある種の同情と、40年前の出来事をつつかれ続けた男性に対してのある種の同情が交錯したなんともモヤモヤした事件だ。

『不倫に時効なし。』

女性コメンテーターが言った。

明らかに『私今からズバッと名言言いますよ』的な顔をしていて幾分げんなりしたが、確かにそうだと思った。

不倫をした方からしたら、昔の一回の過ちだけだしこれだけ謝ったんだからそろそろ許して欲しい、となるのだろうが、された方の傷は常に膿んでいて、上手く絆創膏を貼れたと思っても日常のやりとりや会話の中のトゲがきっかけで絆創膏がめくれて膿みが出てしまうことがあるのだろう。

たとえ何十年経っても、だ。

瘡蓋(かさぶた)になり、やがて剥がれて綺麗に傷がなくなるという自然治癒の法則は不倫問題には適用されないのだ。

『不倫とは心の殺人である』とよく言われるが、まさに彼女は40年前に一回殺されたのだと思う。

そして40年間、時折鋭利な刃物で心を抉られながら生き地獄の様な毎日を過ごしたのだ。

『加害者であり一番の被害者』

僕はそう呟き再び小説の中へ入り込んだ。

クライマックスでは三角関係の末、親友に裏切られ、愛する人の残酷な言葉によって失恋を認めた男の心の葛藤が青臭く描かれていた。


男女問題はいつの時代も普遍的なテーマなのだ。